中小企業というのはどうしても経営基盤が脆弱なため、毎年のように約1万件の業者が倒産しています。他にも、何らかの事情で休・廃業をやむなくされた中小企業が毎年約2万5,000件もあり、減ることがありません。廃業の要因には、後継者がいないというケースが非常に多くなっています。
ただ、中には営業自体は順調なのに、取引先の倒産によってキャッシュフローが悪化したことで倒産・廃業に追い込まれる業者も少なくありません。そこで、中小企業経営者を倒産の危機から救うことを目的とする貸付があり、それが中小企業基盤整備機構の運営している「中小企業倒産防止共済」です。
中小企業基盤整備機構(中小機構)とは、我が国で唯一の中小企業政策全般にわたる総合的な支援施機関であり、平成16年から事業を開始しています。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)への加入
中小企業倒産防止共済は独立行政法人の「中小企業基盤整備機構」が運営している共済制度であり、掛金を積み立てることで、緊急時に借入ができます。売掛金の回収不能によるキャッシュフローの悪化や、取引先に絡んだ連鎖倒産に追込まれそうになった時などに、納付済掛金に応じた資金を借りられます。銀行では貸出を渋りそうな「つなぎ資金」を提供するための共済とも言えます。
中小企業倒産防止共済の加入要件は、以下の「資本金額または出資総額」、若しくは「常時雇用従業員数」のいずれかに該当する中小企業、または個人事業主です。各業種の加入要件は以下になります(左:資本金額または出資総額、右:常時雇用従業員数)。
・製造業、建設業、運輸業など:3億円以下/300人以下
・卸売業:1億円以下/100人以下
・サービス業:5,000万円以下/100人以下
・小売業:5,000万円以下/50人以下
・ソフトウェア業:3億円以下/300人以下
・旅館業:5,000万円以下/200人以下
2種類に分かれている貸付限度額
共済貸付の貸付限度額は基本的に、「実際の損害額」または「納付済掛金の10倍の金額」のいずれか少ない方の額です(最大8,000万円)。50万円以上、5万円単位で借りることができ、無担保・無保証人になっています。
例えば、納付済掛金が200万円の時に、2,500万円の売掛債権の回収不能が出た場合は、2,500万円>2,000万円(200万円×10倍)であるため、貸付可能額は2,000万円になります。
中小企業倒産防止共済の貸付額には貸出金利がありません。つまり、無利息ということです。ただし、貸付額の10分の1に相当する額が納付済掛金から差引かれるため、事実上は利息を取られます。例えば、500万円を借りた場合は50万円、1,000万円を借りた場合は100万円の掛金が没収されるため、10%の利息を取られているのと同じことになります。
ちなみに、100万円を1,000万円に対する利息として換算すると、銀行から年利4%で借入れ、5年で返済した時とほぼ同じ金額です。中小企業倒産防止共済の貸付を利用する場合は、この点を考慮に入れる必要があります。
中小企業の貸し付けや資金調達は下記のサイトでも詳しく解説されています。
中小企業倒産防止共済の主なスペック
中小企業倒産防止共済の主なスペックは以下のようになっています。
1.貸付期間
貸付期間は貸付金額に応じて5年・6年・7年となっており、それぞれ6ヶ月の据え置き期間が含まれています。据え置き期間終了後、毎月均等額を返済します。
2.貸付条件
貸付は取引先の倒産が条件ですが、倒産とは取引先が以下のような状態になったことを指します。
・法的整理(破産、再生、更生、特別清算)
・金融機関による取引停止処分
・私的整理
・大規模災害等による手形の不渡り、支払不能
貸付対象になる債権は、取引先の倒産で回収が不能になった「売掛金」と「前渡金」です。貸付金や不動産賃貸料などは対象から除外されます。また、契約者に買掛金などの債務があった場合は、債権と相殺した残額が対象になります。
3.共済の掛金
中小企業倒産防止共済の掛金は毎月5,000円~20万円の間(5,000円単位)で任意に設定することができ、上限は800万円です。また、掛金の額は途中で変更ができます。
事業資金用に利用できる一時貸付
中小企業倒産防止共済では取引先の倒産とは関係なく、事業資金用として「一時貸付」を受けられます。いざという時の資金調達先になるため、非常に便利です。貸付金は納付期間に応じて、納付済掛金の95%(最大760万円)が限度になっています。なお、掛金総額の上限は800万円であり、800万円になった時に最大の760万円が借りられます。貸付金は30万円以上5万円単位になっており、金利は年0.9%です。
掛金納付月数ごとの貸付基準額は以下になっています(%は掛金総額に対する貸付基準額の割合)。貸付基準額の95%が貸付限度額です。
・1ヶ月~11ヶ月:無し
・12ヶ月~23ヶ月:75%
・24ヶ月~29ヶ月:80%
・30ヶ月~35ヶ月:85%
・36ヶ月~39ヶ月:90%
・40ヶ月以上:95%
・掛金総額が800万円:760万円
仮に、掛金総額が500万円で、掛金納付月数が38ヶ月だった場合は、以下の金額が貸付限度額になります。
・貸付限度額:500万円×90%×95%=427万5千円
中小企業倒産防止共済の解約
中小企業倒産防止共済を解約すると納付済掛金が返還されますが、40ヶ月未満だと元本割れになります。特に、12ヶ月未満だと、1円も返ってきません(無返還)。掛金納付月数ごとの納付済掛金の返還率は以下になっています。
・1ヶ月~11ヶ月:0%
・12ヶ月~23ヶ月:80%
・24ヶ月~29ヶ月:85%
・30ヶ月~35ヶ月:90%
・36ヶ月~39ヶ月:95%
・40ヶ月以上:100%
解約の際の解約手当金は全額が事業利益に加えられます。従って、解約は退職金や修繕などの高額な経費の生じるタイミングで行うのが得策です。
ちなみに、契約者の死亡による解約の場合の解約手当金は、以下の所得税と相続税の対象になります。
1)所得税
解約手当金の受給権は契約者にあるため、被相続人(契約者)の収入として取扱われます。被相続人の準確定申告において事業所得の収入金額に算入します。
2)相続税
解約手当金の受給権者は被相続人ですので、相続人はその権利を相続により承継したことになります。従って、相続税の課税対象とされます。
中小企業倒産防止共済の主なメリットと注意点
中小企業倒産防止共済には以下のメリットとともに、注意点もあります。
メリット1:2種類の貸付
中小企業倒産防止共済では、取引先の倒産による「共済貸付金」と、取引先の倒産に関係の無い「一時貸付金」の2種類の貸付金があります。どちらも緊急時におけるつなぎ資金としては非常に有効です。
メリット2:掛金は全額損金に算入可能
中小企業倒産防止共済の掛金は全額を損金に算入できます。例えば、毎月10万円ずつ支払っていると、年間120万円が会社の経費になります。掛金の払込額は800万円が上限です。
メリット3:解約時に解約手当金が支給
共済を解約した場合、掛金の納付月数が12ヶ月以上あれば、支払った掛金総額に応じた解約手当金が支給されます。
注意点1:共済金貸付は貸付額の10%を消失
共済金貸付では貸付金に対する利息はありませんが、貸付額の10%を掛金総額から失います。
注意点2:加入後6ヶ月未満の倒産は対象外
共済に加入後6ヶ月未満に生じた倒産は、共済貸付の対象外となっています。つまり、取引先の業績が不安になってから、慌てて入っても無駄だということです。
注意点3:12ヶ月未満の解約は解約手当金が未支給
掛金の納付月数が12ヶ月未満で解約した場合、解約手当金は0円です。今まで掛けた掛金を全額損失することになります。